生活環境によって生殖方法を適宜変える生物がいる。好適条件を利用して大量繁殖するために用いるのが単為生殖で、いわゆる自分でじゃんじゃん「産めよ殖やせよ」をメスから実行する。これぞ「男のいない平和」である。こうして個体群の密度が上昇し、数が増えてくると、やっときちんとした卵を作るのに必要な相棒、オスが現れる。こんどオスとのあいだに出来る卵はすっかり硬い殻でコーティングされているので、環境がどれだけ悪化しても休眠状態に入ってしまえばいい。嵐が過ぎ去るのを待つのである。オスはこの時やっと、メスの卵の「殻」を強くする、いわば皺隠しに塗りたくる白粉ほどの価値はなんとか獲得する。人間界をミジンコ界と比較すると何とこの世は価値に満ちあふれていることか。
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